この三連休の京都は紅葉がまさに最盛期を迎えていた。普段は混雑が苦手な自分も、今回は地の利を活かす形で、嵐山・嵯峨野へと計四度目になる紅葉見物に出掛けた。
家から嵐山へは、桂川に沿って北へ2km歩くだけでいい。快晴に恵まれ、爽やかな青空と嵐山の稜線が美しかったが、右手の車道に目を遣ると全国から集ったマイカーの大行列。
車を横目に追い越しながらしばらく歩いていると、遠くに渡月橋が見えてきた。そして周辺には無数の人影。今日は大変そうだなぁなんて思いつつその人込みの中へ。頭上の椛の木だけが、我関せずと涼しい顔をしていた。
そして渡月橋の混雑を避けるように、右へ折れて嵯峨方面へ。飲食店や土産物屋が立ち並び、こちらも物凄い量の人の往来。有名な天龍寺の前を通ったが、この日はそのまま通過した。
人の流れに身を任せ、しばらく行くと道幅が徐々に狭くなる。だが、人の数には変化なし。まあこれも秋の京の風物詩だろう。何でもない道の両脇にも、所々綺麗な紅葉が顔を出している。
そのまま山麓の方へと歩いて行き、常寂光寺に到着。この喧騒には似合わない、ひなびた感じの風情あるお寺。そして境内に入ると、そこには鮮やかな紅葉のトンネルが。
どの木も高さがあり、枝振りや色付きの具合も見事。泉涌寺のように落ち着いて静かに眺めることはできないが、少ない経験からはここの紅葉も必見といって良いように思う。
仁王門を抜けると、そこから傾斜の急な坂道を登る。ここは日陰になっていて、足元には散った椛の葉が一面に。頭上はまるで湖底から水面に浮かぶ紅葉を見上げているよう。
坂道を登り切ったところには本堂と鐘楼がある。どちらも小さく、京都の寺の中では相当質素な方だが、周囲の紅葉が色を添えることで良い絵になっている。
晴天の下、真っ盛りの京の紅葉をしっかりと堪能。被写体が良いと下手なカメラマンでもそれなりに撮れる。周囲でもここぞとばかりにマイカメラが火を噴いていた。
その後、多宝塔や小倉百人一首編纂の碑などを見て、次の目的地へと足を向けた。帰り道にまた立派な黄の椛。
常寂光寺を後にしてから北へ歩いて10分程。次に向かったのは「紅葉の馬場」が有名な小倉山二尊院。その手前まで来た時になぜか煙が立ち込めて来たんだが、木立に差し込む光が拡散して絵画のような風景に。
そして間もなく二尊院の総門に着いたのだが、そこには唖然とする光景が広がっていた。この写真の右方向へ数十mにも及ぶ入場待ちの行列。
さすがに時間配分を考えると待つのも躊躇われ、結局、ここは次回にして、その先の祇王寺を目指した。この辺りから昼を食べたはずのSHANが空腹になり、途中で食べ損ねた豚まんの事ばかり話すようになる。
祇王寺は常寂光寺に輪をかけたような質素な寺だった。寺というよりは、むしろ苔むした庵といった風情。まだ昼下がりだったが、すでに全体が日陰になっていた。
周囲は鬱蒼とした竹林。静謐な狭い境内に趣を感じたが、そんな事はお構いなしに続々と観光客が流れ込む。落ち葉も不十分で、ここは来月の方が良さそうに思えた。
そして祇王寺と隣り合うように小道で繋がる滝口寺。せっかくなのでこちらも見学。紅葉がないだけで全く人がいない。案内板にあるように、平家に纏わる悲恋物語の舞台らしい。
こちらはもう庵をも通り越して、その辺の古民家という感じ。ただ、人の気配がない縁側に腰を下ろして庭を眺めていると、何だかとても心が落ち着いた。そして地面には落ち紅葉も。
精神的に一服した後は、さらに嵯峨の奥へと進む。化野(あだしの)の街並みを通り念仏寺に行ってきた。あだしとは儚いの意だそうだが、ここは古く無縁仏葬送の地。
賽の河原を模した西院の河原は独特の景観。墓と紅葉と同時に見るというのもミスマッチの妙か。
本堂や竹林も雰囲気がありなかなか良かった。どこからともなく鐘の音が聞こえて来て情緒あり。
こうして観光が一巡する頃には、日が傾いていた。来た方角へとぶらぶら歩いて引き返しつつ、いまだに豚まんの話をするSHANのために食べ物を探す。すると目に入ったのが鶏卵の専門店。
賑わっていたのでたまごかけご飯と半熟卵を買ったが、これがうまかった。翌日、早速自宅でもやってしまった程。元々生卵は食べられるようになっていたSHANも大満足。
もう少し戻ると今度はじっと動かない可愛い柴犬を発見。看板に出勤中!とあったが、道行く人に注目されるのが仕事なのか。。地味にSHANの本日一番の笑顔はここだった気がする。
そして嵐山の駅の辺りまで来ると、もう周囲は暗くなっていた。この辺りには店が多いので、何だか勢いで豆腐コロッケだの、にしんそばやカレーうどんだのを買って食べてしまった。
嵐山・嵯峨野にはまだまだ他にも見所は多いが、この日は混雑の中、まずまず色々と回ることができた方だろう。
家に着いてからライトアップ紅葉に向かおうとも考えたが、6時間以上歩きっぱなしだったことに気付きどっと疲労感。紅葉はもうしっかり一年分見た気がするが、まだ名所は多い。
そもそも京都自体、「一見」では分からない深い魅力のある街だという。仕事しつつの1ヶ月半ではなかなか掴み切らないかもしれないが、これからも気の向くままに、色々足を運んでみたいと思っている。